良いも悪いもない世界

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【良いも悪いもない世界】
作:森のカミリオン


猫のダンテは、今日も釣り名人のシャムからお魚を奪って走った。

走って逃げるダンテの後ろの方から、シャムが怒っている声がする。
「このドロボー!なんて悪いやつなんだ!そいつは大事な大事な魚なんだ!返せ〜!!」

ダンテはシャムから奪ったお魚を、とびきり美味しいスープにして食べた。
「あ〜、シャムが釣ってくれた魚は本当に美味しい!シャムはいつも釣ることだけが目的だから、
 バケツの中でお魚が死にそうだ。綺麗なお魚が可哀想じゃないか。お魚は新鮮なうちに食べられる方が
 良いに決まってるんだ。」

その頃カラスのテナは、困っていた。
「困ったぞ。恋人のウーシャが遊びに来るっていうのに、今日のディナーを思いつかない!
 そうだ。良いことを考えた。料理上手のダンテに手伝ってもらおう!」
そしてテナは親友のダンテにすぐ電話をした。
「もしもし、ダンテ?悪いけど、今日のディナーを作るのを手伝ってくれないか?今夜はウーシャの大事な
 記念日なんだ」

ダンテは、すぐにテナの所へやってきた。
テナの大事な恋人の記念日だからと、お祝いにとっておきのワインも持って。
「テナ、さっそく作り始めよう。ウーシャが来るまであと何時間あるんだい?」
「あと1時間で、僕がウーシャを迎えにいくことになっているんだ。」
ダンテは本当に料理上手なので、1時間以内で美味しそうな料理を何品も作った。
テナは、ウーシャもこれで喜んでくれると、ダンテにものすごく感謝した。

そうこうしていると、シャムが慌ててテナのうちに飛び込んできた。
「テナ!テナ!大変だ!!ダンテを知らないかい?どこを探してもいないんだ!」
ダンテは、テナの家のキッチンで、歌を歌いながらデザートを作っていた。
テナがダンテの居場所を教えると、シャムはとんでもない事を言った。
「テナ!ダンテがきみの恋人のウーシャをとっていったんだ!」
その時ダンテは、玄関でテナと話しているシャムに気がついた。
「よぅ!シャム!きみが今日釣った魚は、いつもよりとびきり美味しかったよ!あんな綺麗な魚は初めてだ。
 きみはやっぱり、釣り上手だね!」
とダンテが言うと、テナがポロポロ泣きはじめた。
どうしたのかとダンテがテナに聞くと、

「ぼくの恋人のウーシャは、とても可愛いなんだ。今日はウーシャが初めて水から出て僕の家に来る記念日だった。痛くないように、釣り名人のシャムがウーシャをうまく引き上げてくれる予定だったんだ。そう、きみが美味しく食べてしまった魚さ…」
ダンテは泣いた。シャムも泣いた。テナももちろん泣いていた。

森のカミリオン harü
兵庫県に住むイラストレーターの森のカミリオン harüです。 大好きな動物や植物の絵を描いています。 小さな愛を散りばめた、ほんわかした絵をお届けします。 紅茶とハーブティが大好き、そして一緒に住む犬を溺愛しています。